最近の企業経営改革コンセプトの流行は、「サプライチェーンマネージメント」です。
米国では早くから取り上げられ、導入事例も豊富にありますが、日本では、1998年春頃からようやく新聞 や雑誌にぼつぼつ紹介され始めました。1年経った今、それまでとは一変し、新聞・雑誌はもとより書籍や セミナーなどでも盛んに導入計画や事例が紹介されています。
「サプライチェーン」とは、原材料からエンドユーザーまでの商品の加工やフローに関するすべての活動のことをいいます。ここでは情報のフローも重要な役割を果たします。活動とはビジネスプロセスともいい、顧客の価値創造のメカニズムであり、機能の連鎖のことです。
その「マネージメント」とは、企業の持続的な競争優位性を確保するために、サプライチェーンの相互の連携を改善していくすべての統合的な活動を言います。
別な言い方をすると、
「サプライチェーンマネージメント」とは、企業や組織の壁を超え、1つのビジネスプロセスとして経営資源や情報を共有し、全体最適を目指して、プロセスのムダを徹底的に削減する経営手法のことです。
日本では一気通貫経営などとも紹介されていますが、イメージとしてはこの方が分かり易いでしょう。
それでは、なぜ、今、サプライチェーン・マネジメントが必要になったのでしょうか。
「ロジスティクス」と「製造業の生産管理」という2つの源流からその発展をたどってみましょう。
1980年代、米国の流通業界では、新興の大手ディスカウントストアによる価格破壊が起こり、伝統的なスーパーマーケットは大打撃を受けました。これに対抗するために、繊維・衣料品業界はQR(Quick Response)、食料品・日用雑貨業界はECR(Efficient Consumer Response)として、既存の製造業、流通業、小売業が同盟して、リードタイム短縮による迅速化、物流でのコストダウンを図り、顧客満足を向上 させる体制を構築しました。
これらは、EDI(電子的データ交換)、CALS(開発から生産・販売・廃棄にわたる情報の交換)、EC(電子商取引)など情報技術の普及によって発展しました。
その後、メーカ内の工程、原材料の供給会社をも巻き込んだ全体最適化を目指すようになり、これが現在のSCMにつながっています。
製造業での経営管理手法としては、1960年代に生産管理からMRP(Material Requirements Planning:資材所要量計画)コンセプトが生まれ、それが70年代にMRPU(Manufacturing Resource Planning:製造資源計画)へと進化してきました。この時代は、作れば売れた時代で、メーカの都合で作っていれば良かった時代でした。
その後、モノ余りの時代となり、消費者が望んでいるものを、タイミング良く、安価に供給できなければ企業は生き残っていけない時代となりました。このような時代背景から、米国では80年代に、顧客満足の観点から、コスト、品質、スピード、サービスなどを抜本的に改革するために、組織や仕事のやり方を根本的に再構築するBPR(リエンジニアリング)が行われました。これによって90年代に入り、米国経済は急速に回復しました。
BPRによって米国企業は生き返りましたが、この改革は企業内が対象のため効果には限界がありました。そこにゴールドラット博士の提唱するTOC理論(次項参照)が注目され、原材料や部品の調達から消費者に至るまでのすべてのビジネスプロセスを対象にした全体最適化を目指すようになり、これが現在のSCMにつながっています。
このように、SCMは「ロジスティクス」からの発展と、「製造業の生産管理」からの発展と育ちは異なりますが、原材料から消費者に至るまでのすべてのビジネスプロセスの全体最適化を目指しているのは共通です。つまり「サプライチェーン・マネジメント」は、究極の企業経営管理コンセプトといえます。
このSCMコンセプトの実践には、イントラネットやWebEDIなどの情報通信技術の大きな進歩(革命)があって、はじめて実現されているのです。
それでは、SCMの元になっているTOC(Theory Of Constraints: 制約条件の理論)とはどんなものなのでしょうか。
TOCとは、
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新しい企業の評価基準でボトルネックをみつけ |
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そのボトルネックを、要素技術の活用、能動的な改善・改革によって改善し、スループットを向上させる |
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そして、新たなボトルネックをみつけ、改善する。 |
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これを繰り返して、さらなる全体効率を向上させる。 |
新しい企業の評価基準とは:
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throughput − 売り上げ、利益…会社の目標はキャッシュフローで評価 |
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inventory − 在庫はキャッシュで評価…標準原価は無駄が多い |
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operating expense − 活動経費…新たな設備投資や増員は、次善の策
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この理論は、1980年頃にイスラエルのゴールドラット博士によって提唱され、「ザ・ゴール」という小説で、急速に広まりました。
博士のコンセプトの源流は、BPRとカンバンにあると言われています。BPRがすぐに経費の節減=リストラとなり、米国経済を悪化させ、社会不安を引き起こしたことを反省し、次の教えを説いています。
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新商品開発、新規設備投資によるビジネス改善は安易な策で、効果は保証されない |
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人を育てるのはたいへん。安易なレイオフは売上の増加、増産に対応できない |
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在庫は減らすことが目標ではなく、不良在庫削減によって経費=キャッシュを削減 |
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供給過多のマーケットでは、第1の制約はマーケットにある |
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価格競争でなくマーケットでの売り上げを増やすにはサプライチェーンを見直し、他社にすぐ真似のできない差別化材料を作り出さねばならない(納期、品質など) |
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Thinking Processなど現状分析、背反する要件のソリューション模索などの考え方の方法論を編み出している。(一時代前の船井流、川喜田流、産能大に似ている) |
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企業の効率を評価するのにROA(Return Of Asset− 資産回転率)が今の時代では重要である |
1998年10月5日の日経新聞に掲載された「ドラッカー氏に聞く企業経営」は日本の時流を的確に捉えたインパクトのあるインタビューで、テレビなどでも評論家が取り上げていました。
■ 情報革命の流れはどう進むか ■
「情報革命の次のステップは、技術や機器、ソフトウエア、スピードの問題ではなく、コンセプト(概念)の問題だ。これまでは情報の収集、貯蔵、伝達、分析、表現方法などが中心だったが、これからは情報の意味や目的、狙いを考えることが重要になる」
「コンセプトを中心とした情報革命によって企業経営者の仕事は革命的に変わる。経営者は情報を武器に企業がなすべきことを明確にするのだ。経営者が求めているのは、より多くの情報やより早い情報でなくて、企業にとって価値のある情報だ」
ドラッカー氏の言うコンセプトとは、SCMやECR、QRなどで提案されている経営改善コンセプトや、情報システムコンセプトであったり、すべての企業の共通業務である会計、人事、総務などの業務コンセプトの実現であるERP(Enterprise Resources Planning)などでしょう。米国で産まれ、発展してきたこれらの経営改善コンセプトや情報システムコンセプト、ソフトウェアが、なぜ日本では米国ほど積極的に活用されないのでしょうか。
それには、次のような理由が考えられます:
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経営者にとって情報システムは理解できない未知の領域(聖域)であり、日本では横並びの情報システム導入以外の戦略は無かった |
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情報システム部門へは人材が投入されず、また専門職として人事交流も 活発でなかったため縁の下の力持ちにしかならず、横断的に業務を分析、企画する能力が育たなかった |
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米国と異なり、大手コンピュータメーカがユーザーのアプリケーション開発を全面的に受託する方式が一般的であり、業務を理解しない開発者へのまるなげ委託となった |
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ひところ一世を風靡したTQC(Total Quality Control)は日本の製造業の品質と生産性を大幅に向上させるためのボトムアップからの企画・提案活動であったが、BPRのコンセプトである業務プロセスの全社横断的改革という視点にはなり得なかった |
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業革の本家とも言われるイトーヨーカ堂でさえ、業革は店舗の責任者、売り場フロアーの責任者、本社部門の担当責任者といったミドルクラスの組織個別の改善作業コンセプトでしかない |
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これは日本の企業経営の問題で、米国では株主が強いので経営は短期に結果を出さなければならず、長期的視野に立った経営をしていない、という見方が一時、日本で定着していた。しかし、実際には2年の任期しかない日本の経営者の方が、問題が表面化していないビジネスプロセスの再構築など、任期中にリスクを犯してやるよりも長期課題として先送りしていただけ。 |
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本当に株主に利益をリターンするには、BPRを積極的に企画、実施し、企業体質を利益体質に改革するしかない。
BPR:
BPRはリストラを勧めていない。この経営方針と具体策を株主に説明し、納得させれば経営陣は約束した時期まで赤字決算でも経営を続けることができ、うまくいけば夢のようなボーナスも得られる。しょせん、決算重視の日本的サラリーマン経営者は、ぬるま湯環境に浸かっているのでは? |
要するに、経営者の勉強不足、努力不足でしかないのです。全社基幹業務のコンピュータ化(自動化、省力化、正確化など)が一段落すると、情報システム部門は次に何をすべきかが提言できず、金食い虫として経営を圧迫し始めました。バブル崩壊により景気が後退し、情報システム無用論が叫ばれ、情報システム投資は数年間に渡り極端に縮小されました。 この傾向は2年ほど前に終わり、今は2000年問題の解決による需要の拡大も併せて、徐々にシステム投資も上向いてきましたが、まだ米国のような経営改善のためのシステム企画、投資への気運は高まっていません。
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(1) 情報技術の活用 |
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調達、生産、物流、販売の情報を統合し、それらの統合された情報を関係者がリアルタイムに共用できる環境が必須。 |
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(2) 意識の転換と仕組み作り |
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従来から遂行してきた業務を、消費者の視点で、システム全体の最適化を目指して変革する意識の転換が必須。
とくに新たな仕組み作りを進めるために、部門のエゴを取り払うトップマネジメントの強力なリーダーシップが必須。
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(3) 全体最適の観点からの改善・改革の積み重ね |
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SCMの考え方を活用すれば、業務を大きく変えることなく在庫削減、リードタイム短縮などの一応の成果は得られます。ここで満足していてはいけません。SCMの本質はBPR(リエンジニアリング)活動です。業務のボトルネックを探して改善・改革する…これを繰り返して、サプライチェーン全体の能力を高めることに積極的に取り組んでいくことが必須。 |
パソコン、光ファイバーネットワークの出現、インターネット技術の進歩によってもたらされた情報リソースの低コスト化と利用のし易さは、サプライチェーン・ネットワークのリンクを容易にし、かつ情報伝達のタイムディレーを無くしました。これは、組織がEC(Electric Commerce: 電子商取引)として知られるコンセプトの実現に向かったことを意味しています。
このECにおいて、トランザクションはEDI(Electric Data Interchange)、EFT(Electric Funds Transfer)、バーコード、ファックス、ボイスメール、CD-ROMカタログなどのさまざまな電子メディアを交換しています。紙のメディアは既に時代遅れ。新しい情報システムでは2つの相対する組織、バイヤーとサプライヤー、ディストリビュータと小売り間でのトランザクションそのものを画面表示するのは誤りです。 むしろ理想的なシステムでは、サプライチェーン全体にすべての機能と組織を網羅させるべきです。企業の「Intranet」システムは、将来、次のような特徴を持つでしょう。
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情報フローの集中化と同質化(アクセスが容易なDBに落とし込む) |
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トータル・ロジスティックス・マネージメント−輸送、発注、製造システムの統合化 |
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オーダー変更指示が、製造計画、ロジスティック計画、倉庫オペレーションを串刺しにして自動変更ができる |
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ビジネスユニットと国境をまたぐ輸送リソースをグローバル・ビジュアライズ化 |
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グローバル在庫管理−すべての項目に移動の追跡と位置特定できる |
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グローバル調達−購買機能を統合化し、ビジネスユニット間で部品標準化を推進 |
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会社間情報アクセス−バリューチェーン間の組織の上流、下流にあるすべての製造、需要情報を明確化 |
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データ交換−通常のテレコミュニケーションを利用した関係団体と非関係団体間 |
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データ取得−発生源でのオーダーデータの獲得と製品の追跡、主要変更の履歴 |
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ビジネスの変形−新たなビジネスプロセスとシステムの概要(big picture)の参照と受け入れ |
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サプライヤー−顧客間関係の改善―技術リンクでの投資の正当化 |
下図に理想的なサプライチェーン情報システムを示します。ここではチェーン内のどの組織も情報を見ることができ、またフィードバックループの数と合わせて統合化システムを形成しています。
これらのリンクは極めて厳格であり、just-in-time(JIT)配送を実現するためにチェーン内のどのリンク間でも在庫は極小化され、変動への対応は迅速かつ効果的に実行することが要求されます。POSデータはサプライチェーン間で直ちに転送され、マネージャーはスポット動向、計画容量への要求、資材の適用、チェーン内のサプライヤーへの通達のために利用されます。
情報フローは同様に商品とサービスの支払をEFTにより銀行間で実施することを可能にしており、サプライチェーンメンバー間での迅速な支払が実現されます。
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